【新刊紹介】 磯岡哲也著 『宗教的信念体系の伝播と変容』

 本書は、著者の磯岡哲也氏が既出の論考を中心に、地域社会における宗教的信念体系の伝播や変容などの過程に関して、集中的に論じたものである。著者はすでに都市部でも調査研究を行っているが、本書では事例を農山漁村に限っている点が一つの特色になっている。また、対象を一宗教に絞らず、二つの新宗教とキリスト教を扱ったことで、「伝播・変容・受容」に注目した筆者の考察に、深みをもたせたと言えるだろう。
 本書の構成は次の通りである。
 序章 研究史的位置づけと分析枠組み
 第一章 立正佼成会茨城支部の地方伝播・浸透・定着とその要因
 第二章 円応教飯南教会の地方伝播・浸透・定着とその要因
 第三章 福田聖公会におけるキリスト教の伝播・浸透・定着・変容とその要因
 第四章 安房大貫キリスト教会におけるキリスト教の伝播・浸透・定着・変容とその要因
 終章  宗教的信念体系の伝播・浸透・定着・変容
 付章  ある女性布教師の信念体系受容過程-口述の生活史

 本書での議論は、新宗教とキリスト教に二分される。前者で主に、伝播・浸透・定着の要因などが考察された。後者ではそれらに加え、変容の要因も論じられた。なかでも、キリスト教の日本村落への土着化に関して、先祖祭祀関連に対するキリスト教的な再解釈が注目された。
 筆者は独自の視点として「文化接触による地域社会そのものの文化変化という比較的新しく生起した社会的要因を加味した考察」(本書一頁)を掲げた。この分野での宗教社会学的な実証研究は多くない。そもそも地域社会における変化は簡単にはつかめるものではない。だが、筆者は各章で丁寧な調査に裏付けられた論を展開している。
 与えられた紙幅では全てを詳細に議論できない。そこで、評者の関心に従い、第三章と付章に絞って述べていこう。
 第三章は福田聖公会を対象にしている。この教会は、昭和四十六年に西山茂東洋大学教授が、修士論文の対象として取り上げ、質問紙調査などの綿密な調査を行っている。その後、筆者が卒業論文の対象として昭和五十二年に民俗調査を行った。さらに、筆者自身の手で平成十年に再調査がなされた。
 次々と対象を変えて研究をしていく者の多い宗教研究において、再調査を行いその結果を再び報告したこと自体、貴重なことである。筆者は一度調査した対象とは長く関係を保ち続けており、それが、今回のような再調査を可能にしたのだとも言える。さらに、そもそもこの対象の場合、先行研究者による成果があるにもかかわらず、民俗調査により先行研究の知見を補強していったのである。視点・方法を変えることで、一つの調査地から多くのことが得られた好例と言えよう。
 ただし、筆者自身述べていることだが、本書の大部分は、森岡清美淑徳大学教授、および西山茂教授に関わりが深かった調査地であった。それゆえ、アカルチュレーションや土着化など本書で重要な概念に関する筆者なりの整理は示されたが、全体の分析枠組みなどの部分で、筆者の独自性が十分にあらわれたとは言いがたい。筆者自ら開拓した対象、第四章の安房大貫キリスト教会における調査研究も、前章以前と同様、個人面接や民俗調査の手法を踏襲するに止まっている。
 その意味で、森岡・西山の両者が手がけなかった「口述の生活史」という手法を用いた付章は、評者にとっては大変興味深い。この章は、筆者が円応教の女性布教師について詳細な聞き取りを行い、彼女の信念体系受容過程を、彼女の語りを時系列の編集もせずに「口述の生活史」としてまとめたのであった。とくに一九七○年代後半以降に日本の社会学で多く提出されて出した「口述の生活史」を、宗教研究の分野で筆者がすでに八○年代初期に取り入れたことは特筆しておきたい。
 本書は決して大胆な新しいアイディアを提案しているものではない。一つ一つの丁寧な調査の積み重ねが、本書の最大の魅力である。そして本書のような実証的研究は、流行をものともしない重みがあるのは間違いないところである。「地域社会と宗教」を考える際に、本書は必読となるであろう。九○年代の日本の宗教社会学の一つの成果として、一読をお薦めしたい。
(一九九九年三月刊、四六版、二六○○円、学文社)

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